パラレルワールド
私の祖父は戦後に就職した印刷会社から高度成長期に独立し、一人で印刷会社を立ち上げた。
日本がバブル全盛期だった頃、父がその後を継ぎ、今ではほとんどなくなった刷版印刷でも商売は繁盛していた。
そのため幼い頃の私は生活に不自由はなく、なんでも好きなものを買ってもらい、家の庭は広い芝生があり、たまに庭師のおじさんがいるほど裕福な家庭に育った。
私は大のおじいちゃん子だった。
会社があった街と、自宅があった街は少し離れており、私は会社の近くにあった少し裕福な家庭の子が通う幼稚園に通っていた。
幼稚園が終わった後は幼稚園から離れた自宅で、祖父と一緒に過ごすことが多かった。
自宅の周辺にはあまり友達がいなかった為、私は1人で遊ぶことが多かった。
お気に入りだった遊び場は祖父が作った庭だった。
4歳だったか5歳だったかあまり覚えていないが、その庭には祖父が作った滝があり、滝が落ちるところには鯉が泳いでいた。
たまに池に足を入れて遊んでいたことも覚えている。
しかしある日、いつものように滝で遊ぼうと外に出たとき、思いもよらぬ光景を目撃した
。
昨日まで遊んでいた滝が跡形もなく消えていたのだ!
滝があった形跡も鯉が泳いでいた池の形跡も全くなく、そこにはずいぶん前から生えていたような木や雑草が生い茂っていた。
祖父からは滝をなくすなど全く聞いていなかったため、私はすぐに祖父に「なんで滝がないの?」と聞くと「滝って何よ?そんなのねぇよ」と言われたのだ!
記憶が確かだった私は他の家族にも滝の事について問いただしたが、口を揃えて滝なんて無い。と答えるのだった。
子供ながらにショックであったが、私があの滝で遊んだ記憶は確かで、姉とも一緒にその滝で遊んでいたのだから。
時は経ち、そのことも気にならなくなったが、大人になった今でもあの滝で遊んでいた記憶は確かにある。
人は幼い頃の記憶があいまいで大人になった時現実とは異なる解釈をしてしまう事があるが、大人になった今でも、姉に当時のことを聞くと私は確かに、庭に滝があったとその頃から言っていたそうだ。
当時は子供だったため、ちょっとした不思議な出来事が起こったと言うことにしていたが、今考えるとパラレルワールド説も考えられる。
子供だった私が滝が存在する世界から突然ある日滝が存在しないちょっと違う世界(今いるこの世界)に来てしてしまったんだと考える事もできる。
という事は私は平行世界からやってきた人間ということになる!
世界中には平行世界パラレルワールドの不思議な話がたくさんあるが、もしかしたら私の幼い頃にあったこの話も一節なのかもしれない。
絵:筆者本人作。 「パラレルワールド」